サーキュレーター/水流ポンプ

製品解説
製品解説飼育器具

一般的な意味でサーキュレーターと聞くと、まず丸っこい送風機が思い浮かぶ方も多いかと思います。
でも今回のサーキュレーターは海水水槽用。

今回はなぜサーキュレーターを使う必要があるのかと、機種ごとの特徴について解説します。


サーキュレーターとは

海水水槽におけるサーキュレーターとは、ひと言でいうなら水流ポンプ。
サーキュレーターの名前で呼ばれるようになったのはここ10年くらいのことだったりします。

理由としてはカッコつけた名前で呼びたくなったから……というわけではありません。

昔はいわゆるパワーヘッド、水中ポンプの形状をしていました。
そして、よりサンゴに適した水流を作るためのさまざまな試行錯誤の結果、形状が徐々に変化し丸っこい送風機のような形になったことからサーキュレーターと呼称も変化してきたのです。

最早なつかしい…と言えるようになってしまった
マキシジェット
サンゴに適した水流を求めた結果、送風機に近い丸い形状へ変化してきました

サーキュレーターの種類

サーキュレーターにもさまざまな形状のものがあります。
まずはそれぞれの特徴を解説しましょう。

スポット型(ボール型)

スポット型による水流イメージ図
水槽内を大きく撹拌する水流
スポット型のサーキュレーター。
サーキュレーターと呼ぶ場合、このタイプを指すことが多いです。

パワーヘッド型と比べて、太く回転するような水流を作ります。
小型水槽であればメイン水流用にも使えますが、大型水槽では複数台を使ってイレギュラーな変化を付けるための水流ポンプとして使用できます。

以前は水流コントローラーのない単体のモデルが多かったのですが、現在はコントローラー付きのモデルが主流になってきています。
コラリア サードジェネレーション7000
NEWA ウェーブ2 NWA1900adj
コラリア ナノ 900

メーカーによる実際の使用動画も併せてご覧ください

クロスフロー型(バー型)

クロスフロー型による水流イメージ図
水槽内を大きく撹拌する水流
バー型とも呼ばれるサーキュレーター。
近年主流になりつつあるタイプです。

クロスフローという構造を採用したフラットな見た目が特徴で、スポット型よりもさらに広範な水流を作り出します。

主に大型水槽で水槽内全体を攪拌するためのメイン水流を作るのに適した機種です。

長さがありますが、横から見るとスポット型ほどの面積はないため、小型水槽でもサーキュレーターを目立たせたくない場合にも活躍します。

現在主流のモデルはコントローラー一体型のものが多く、これ一台で非常に複雑な水流を作り出すことが可能になっています。
maxspect MJ-GF4K
Reef Wave 25
Reef Wave 45

メーカーによる実際の使用動画も併せてご覧ください

水流コントローラー

コントローラーを使ったON-OFF運転イメージ図
上下左右に揺れる波のような水流
サーキュレーターの動作感覚とパターンを制御するコントローラー。

製品によりセットできるパターン数は違いますが、サーキュレーターの動作を数秒ごとにON-OFF繰り返す間欠運転が基本の動作になっています。

間欠運転のメリットは動作のON-OFFの繰り返しにより、引き波が生じて上下左右の揺れが発生することです。これにより水槽内のサンゴやイソギンチャクが自然の海の中にあるのと同じように左右へゆらゆらと揺れるようになります。

現行のサーキュレーターはコントローラー一体型のものが主流ですが、単体の水流コントローラーを使用することで普通のポンプも間欠運転で動かすことが可能になります。
hydor スマートウェーブ サーキュレーター
(コントローラー単体)
ナプコ ナチュラルウェーブ ミニ
(コントローラー単体)
VestaWave VW08A
(コントローラー付きサーキュレーター)

メーカーによる実際の使用動画も併せてご覧ください


サーキュレーターの役割

サーキュレーターの役割は単純に強い水流を作るだけではありません。
生体、特にサンゴに適した水流を作ることが主な目的です。

従来のパワーヘッド型ポンプでは一方向からの細くて強い水流になりがちでした。
サーキュレーター型ポンプでは範囲の広い水流を作り出せる構造になっています。

パワーヘッド
ピンポイントで強い水流
スポット型サーキュレーター
水槽内を大きく撹拌する太い水流

先述のサーキュレーターのバリエーションを見ると、なぜここまでする必要があるのかと不思議に思われるかもしれません。
それにもきちんと理由があります。

それについても解説しましょう。

サンゴに適した水流を作る

サンゴは呼吸や栄養吸収、排せつなどの代謝を海中のうねるような波の動きに身を任せることで行っています。それはほとんど依存していると言っていいほどで、適切な水流がなければ代謝が上手くいかず弱ってしまいます。

一方からの強すぎる水流はサンゴの代謝を阻害してしまう
一方的な水流だけでは海水の取り込みが上手くいかず
代謝が阻害され、弱ってしまいます
上下左右の波に揺られることでサンゴの代謝が活発化する
適切な水流によって体内に新鮮な海水を取り込みやすくなり
排泄もスムーズに行えるようになります

実際のメカニズムとはちょっと違いますが、イメージとしてはサンゴのポリプがユラユラ揺れるような水流でないと呼吸がしづらくなってしまうものと言えるかもしれません。

サンゴを飼育するためには水質も非常に重要な要素ですが、適切な水流の有無もそれに並ぶ重要な要素なのです。

この自然の海に近い水流を実現させるべく、メーカーや古くからのマリンアクアリスト達が苦心しながら試行錯誤し続けてきました。
そうしてたどりついたのが、現在の形状と水流コントローラーによる制御システムです。

水流コントローラーがないときは複数のサーキュレーターと
ライブロックを利用して複雑な水流を作っていました
水流コントローラーの登場で間欠運転が可能になり
より自然に近い水流を作ることが可能になりました

好気性微生物を活性化させて悪性の細菌類が増殖するのを抑える

水槽内に好適な水流をつくるのはサンゴのためだけではありません。

海水中には淡水環境と比べて非常に多くの微生物が存在しています。
そのため水流が滞ったりして動きがなくなると、すぐに酸素が消費されてしまいます。

海水中は淡水よりも微生物の種類数と総量がはるかに多いため
水が澱むと、あっという間に酸素を消費してしまいます

さらに海水は淡水よりもミネラルなど栄養分に富んでいるので、バクテリアが増殖しやすく淡水よりも傷みやすい傾向があります。

汲んできた天然海水を1日以上エアレーションなしで置いていたら、ひどい腐敗臭がしたという経験をした方も少なくないでしょう。

水が動かずに酸素が減ると、それを必要とする好気性の微生物が死にはじめます。
そこからアンモニアや硫化水素が発生し、それだけでも生体にとって非常に危険です。
加えて、さらに厄介な存在が数を増やしてきます。

それはビブリオ菌です。

ビブリオ菌は酸素の少ない嫌気環境でも生きられる細菌で、有機物を強力に分解する性質を持っています。そのため、酸素が少なく微生物の死骸が増えた環境は増殖にうってつけの環境なのです。

海水中では常在菌であるために非常に厄介な存在のビブリオ属細菌

ビブリオ菌が増殖すると海水魚ならビブリオ病、サンゴにはRTN(Rapid Tissue Necrosis=直訳するなら「急速な体組織の壊死」という意味)といった病気を引き起こしやすくなります。

ビブリオ菌を抑制するためには増殖しやすくなる環境を避けることです。
※ビブリオ菌は海水中に存在する強い常在菌なので、完全な駆除はほぼ不可能です

それはビブリオ菌と競合する好気性微生物が増えやすくなる環境でもあります。
水流が澱みなく水槽内の隅々まで酸素が行き渡ることで、競合相手となる好気性微生物も活性が増してきます。
好気性の有機物分解菌が増えるとビブリオ菌のエサを奪って、これを抑制します。

つまり、水流が水槽内にしっかりと行き渡ることでビブリオ菌による病気が出にくい環境になるというわけです。

澱みができると酸素が不足して好気性微生物が死んでしまう
適切な水流で好気性微生物が活性化してビブリオ菌を抑制

ビブリオ菌は海水中に常在している好塩性の通性嫌気性細菌です。
通性嫌気性細菌とは酸素のある好気性領域でも活動できる嫌気性細菌を指します。

ビブリオ菌の仲間には腸炎ビブリオなど人間にとっても致命的で恐ろしい病気を引き起こす種類がいることから、マリンアクアリストでなくてもその名前を知っている方は多いかと思います。
悪名高きコレラ菌もビブリオ属の細菌です。

このビブリオ菌の仲間は海中に常在している細菌でもあり、生物の死体など海中の有機物を分解することから生態系を支える重要な分解者としての一面も持っています。

ですが、ビブリオ菌が厄介なのは下記のような特徴を持っているからです。

ビブリオ菌とビブリオ病の特徴
  • 強力な溶血毒を持っており有機物を強く分解する
    • 死体を分解するだけでなく、生きた細胞も破壊するので感染は非常に危険
    • 海水中に常在しているので、免疫が正常に機能していれば問題ない
  • 増殖がきわめて速いので、感染すると致命的な状態になりやすい
    • 主な症状は敗血症や多臓器不全を引き起こす
  • 感染した場合は既に体力と免疫力が落ちている状態のため、回復の可能性が低い
    • 体表に血がにじむなどビブリオ病の症状が見られたときには既に手遅れの状態


海水魚にビブリオ病が発生すると、そのほとんどがすぐ死んでしまうのはこれが理由です。
さらにサンゴや無脊椎動物の調子が落ちたときに最後のトドメを刺してくる存在でもあります。

海水魚のビブリオ病には主にビブリオ・アングイラルム(V. anguillarum)という種類が、
サンゴの白化にはビブリオ・シロイ(V. shiloi)が関わっていることが判明しています。

予防のためにはビブリオ菌が増殖しにくい環境作りと、飼育している生物にしっかり栄養を摂らせて免疫を高めることが鉄則です。


サーキュレーターの使い方

水流によって海水水槽内の環境を健全な状態に保つというのがサーキュレーターの役割です。

重要なのは水流の死角になるところができないように設置すること。
澱んだ個所があると魚やサンゴの病気が発生しやすくなってしまうので注意しましょう。

サーキュレーターの効果的な使いかたを紹介します。

メイン水流とサブ水流を作る

基本としては水槽内を循環させる水流ランダムな波を作るための水流の二つに分けましょう。

オーバーフロー水槽であればサンプから本水槽へ戻すポンプからの水流が、そのまま基本の循環水流となります。非オーバーフロー水槽の場合はクーラーへつなぐポンプがその役割を担います。

そこへ水槽のサイズやサンゴの種類に合わせてサーキュレーターを選んでいきます。

原則としてサーキュレーターの位置は循環水流と対角線上で向かい合うように設置しましょう。
サブ機を設置するときもメイン機の反対側になるようにします。

異なる2つ以上の水流をぶつけることによって
複雑な乱流が生まれやすくなります

サーキュレーターの高さは作りたい水流によって、お好みの位置に調整してください。

向かい合うように設置したサーキュレーターから出た水流がぶつかると複雑な乱流が発生します。
ぶつかる角度や水流の強さによって乱流は複雑に変化しますので、お好みの水流ができるようにサーキュレーターの位置を調整してください。

横幅のある水槽ではクロスフロー型をメインとし、
スポット型をサブのサーキュレーターにして
水流に変化をつけるようにしましょう

横幅のある大型水槽ではメインのサーキュレーターにクロスフロー(バー)型の使用が向いています。
120cmを超える幅の場合、1台だけでは複雑な水流を作るのが難しくなるため循環水流+2個以上のサーキュレーターを設置しましょう。

ミドリイシなど強い水流を必要とするサンゴがいる場合は、必要に応じてサーキュレーターを追加してください。

水槽内に設置したライブロックのレイアウトによっても水流が変わります。
一度セットして水槽内をよく観察しながら、サーキュレーターの細かい位置を調整しましょう。


まとめ

今回はサーキュレーターと水流の重要性について解説しました。

海水水槽においてはサンゴ水槽で水流の重要性が謡われることが多いですが、海水魚中心の水槽でも澱みができると病気になりやすくなる傾向があります。
特にビブリオ病は非常に厄介で、魚の体表に症状が現れた時点で既に手遅れと言っても過言ではないほど脅威になる存在です。

適切な水流はビブリオ菌の過度な増殖を抑制する効果もあります。
病気の出にくい清潔な環境を保つためにも、海水水槽内の水流はしっかりと押さえておきましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました