あたり前の話と言われてしまいそうですが、海水には塩化ナトリウムをはじめとしたさまざまな元素が含まれています。海水に含まれる塩分を適切な濃度に調整しなければ海の生物は飼えません。
この塩分を目に見える形で確認するための器具が比重計です。
そして比重計にもさまざまな種類があります。
意外と種類も多く、「どれを使ったらいいんだろう?」と迷ってしまう方も多いかと思います。
今回はちょっと地味な存在ながらも大切な役割を持っている比重計について解説していきます!
比重計の役割
海水中の塩分はイオンの形で水に溶け込むため、人間の肉眼で直接見ることはできません。
そこで目に見える形で数値を表してくれるのが比重計の役割です。
比重計がなければ海水の塩分調整が不可能になってしまうので、海の生物を飼うことができません。
マリンアクアリウムを始めるためには必需品といえる重要アイテムなのです。
用途別に選ぼう!
まずは用途別にどう選べばいいのかをご紹介しましょう。
比重計の画像下「解説を見る」ボタンをクリックもしくはタップすると、個別の解説へ移動します。
はじめての海水魚飼育向け[できるだけ安価で済ませたい]
サンゴや無脊椎動物の飼育向け[精密な計測がしたい]
複数台の海水水槽を管理する場合[計測の手間を最小限に抑えたい]
深場の海水魚や深海生物などの飼育向け[20℃未満の低水温環境]
比重計の種類
比重計はタイプ別に特徴があり、それぞれメリットデメリットがあります。
ここでは比重計の種類別に特徴を解説します。
コンパクト比重計(アナログ比重計)
特徴 | 最もよく見かけるタイプがアナログ式とも呼ばれる、このコンパクト型です。 ※アナログ式という括りだとボーメ計や屈折計も含まれてしまうので、ここでは便宜上コンパクト型と称します。 このタイプは安価でお手軽な製品が多いのが特徴です。 |
使い方 | 本体の中に海水を入れ、プラスチック製のフロート針が浮かび上がることで比重の数値を表します。 比重の計測時にフロート針に気泡が付着していると正確な数値が算出できなくなってしまいます。そのため、海水を入れたら必ず軽く振ってフロート針に気泡が付着していないか確認をしましょう。 ※画像はカミハタ「ディープシックス」のもの 製品によってはこのように直接水槽内に入れて測るものもあります。 |
注意点 | フロート針を容器に留める出っ張りが抵抗になる構造をしているため、数値にズレが生じることがあります。素材がプラスチック製であることから、経年劣化による摩耗などで数値のズレが生じる可能性もあることを把握しておきましょう。 また、海水には水温で比重が変化するなどの特性もあります。 構造上、微調整や校正ができないコンパクト比重計は正確な比重を出すには若干の難があると言えます。 主な用途は比重の上下にそれほど敏感でない一般的な海水魚向けとなる比重計です。 |
ボーメ計
特徴 | 古くから使われている比重計で、理化学機器の一種でもあります。 ボーメ度という計量単位を利用して塩分の比重を測ります。 ガラス製の理化学機器なので数値の正確性は高いのですが、ボーメ度を利用して比重を測るため直接の計測ではなく、数値を変換して読む必要があります。 |
使い方 | 計測するときはボーメ計本体より深い容器を用意します。 海水を汲み入れる容器はメスシリンダーのような細長いものがおすすめです。 |
注意点 | ガラス製なので衝撃で割れてしまうことがあります。 必ずしも使い勝手が良い比重計ではないため、日常の使用よりも他の比重計にズレが生じていないかの確認用として1本常備しておくのがおすすめの使い方になります。 特にコンパクト型比重計の補正用として用意しておくと良いでしょう。 |
屈折計
特徴 | 正確性を求める場合におすすめの比重計です。 コンパクト型に比べると価格が高めですが、近年では比較的安価な製品が流通するようになってきました。 使い勝手の良さはデジタル式に次ぐほどで、比重の計測と使用後の洗浄もコンパクト型比重計より手間なく使うことができます。 比重の変化にシビアなサンゴや海産無脊椎動物の飼育をするのであれば、この屈折計を使いましょう。 |
使い方 | 屈折計のプリズムに測定する水をスポイトで2~3滴ほど垂らし、採光板を閉じてプリズムとの間に気泡が入っていないことを確認します。 屈折計の適正基準となっている水温に調整されている海水であれば、すぐに目盛を読み取っても問題ありません。2~3℃のズレがある場合は数分置いてなじませましょう。 また、海水の比重を測る前に塩分の含まれない真水を計測して目盛が1.000を指すことを必ず確認しておきます。このときにズレが生じていれば校正をします。 校正についてはこちら |
注意点 | 製品によって計測の適正基準となる水温の設定が異なることです。 購入の際は必ずその点も確認しましょう。 一般的な屈折計(左)は水温20℃での計測を適正基準としているものが多いですが、レッドシーのリフレクトメーター(右)など水温25℃を適正基準とした調整をされている製品もあります。 |
知っておきたいこと | 20℃基準の屈折計で25℃の海水を測った場合、実際の比重とは若干のズレが生じます。 下の表は「塩分が35pptの海水」を基準となる水温設定の違う製品(25℃と20℃)で水温を変えて計測したときの比重変化を比較したものです。 この表を参考にすると「20℃基準の屈折計」で「水温20℃の海水」を測ったときの比重が「1.0266」。同じ塩分で「水温25℃の海水」を測ると「1.0252」と変化しています。 基準に設定された水温から5℃上がった海水を測ると(20℃基準設定の屈折計で水温25℃の海水を計測した場合)、比重は1.001程度低く表示されることを覚えておきましょう。 また、「20℃基準の屈折計」で「水温20℃の海水」を測ったときの比重が「1.0266」。 「25℃基準の屈折計」で「水温25℃の海水」を測ったときの比重が「1.0264」と、ほぼ同じ数値が示されます。 このように、正確な比重を求めるには測定する海水の水温を屈折計の基準設定と同じ水温に調整する必要があるというわけです。 ですが、一般的な海水魚の飼育であればここまでシビアに比重を見なくても問題はありません。 微細な比重の変化にデリケートな面のあるサンゴや無脊椎動物を飼育する場合においては、なるべく適正基準となっている水温の海水を用意して測ることをおすすめします。 |
屈折計にはATCという表記(※下図点線赤丸)がついている製品があります。
この補正機能は室温が10~30℃の間で屈折計本体の温度に対して働くもので、測定する海水の水温に対して補正するものではありません。
つまり屈折計本体の温度と室温が10~30℃の間であれば問題なく使用できるということを表しています。測定に適した水温の設定は製品ごとに違うため、その点に注意しましょう。
デジタル比重計
特徴 | ワンタッチで精密な計測ができる比重計です。 製品にもよりますが、比重と塩分を測ると同時に水温の計測もできるものもあり圧倒的な使い勝手の良さが特徴です。 ※画像はアクアギーク「デジタル比重・塩分濃度計 MS-31」のもの その使い勝手の良さは、慣れてしまうと屈折計での計測すら手間に感じてしまうほど。 サッとワンタッチで計測できるので、複数台の海水水槽があるときにも大活躍します。 また、海水の比重は水温で変化するため塩分と合わせて正確な数値を測りたい場合はデジタル式の右に出る比重計はありません。デジタル式は導電度と水温から比重と塩分を算出するため、測定する海水の水温を気にせず正確な比重と塩分を測れるのが最大のメリットです。 |
使い方 | 先端のセンサー部分を測定する海水に入れてボタンを押すだけです。 ※画像はマーフィード「マリンソルトテスタ」のもの このとき、水槽内に直接センサーを入れて計測しても問題ありませんが、流水中では計測に若干時間がかかることがあります。 |
注意点 | 数少ないデメリットは、電子機器でもあるため本体価格が高価なこととバッテリー交換が必要なこと。 また、他のデジタルメーター同様に専用の校正液も必要になります。 ※画像はマーフィード「マリンソルトテスタ」のもの ※画像はアクアギーク「デジタル比重・塩分濃度計 MS-31」のもの |
海水の比重を測るうえで知っておきたいこと
ここからはちょっとした化学についてのお話です。
海水の比重を測るには、前提知識としてちょっとした海水の性質を知っておく必要があります。
あまり細かく説明しすぎると長くて小難しくなってしまうため、要点をかいつまんで説明します。
塩分(濃度)と海水の比重との違い
非常にややこしいのですが、塩分と海水の比重はまったく別のものになります。
塩分は水の質量(kg)に対して塩(えん)がどれだけの量溶け込んでいるのかを表した数値です。
主にpptや‰(パーミル)といった単位で表されます。
※1:塩(えん)=陽イオンと陰イオンが結合、もしくは酸と塩基(アルカリ)が結合してできた物質の総称
一方で比重は海水の密度に関係しており、同量の「1気圧下における、4℃の純水」との重さの比とされています。一般的な海水の比重1.023という数値は「1気圧下における、4℃の純水」と比べて1.023倍重いという意味になるのです。
つまり、塩分は水に含まれる塩(えん)の量を表した数値ですが、比重は塩そのものの量を表した数値ではないということになります。この違いを覚えておきましょう。
海水の比重は水温で変化する
ここからさらに厄介な話になりますが、海水の比重は密度に関連していることから水温で変化します。
かんたんに説明すると、海水は水温が下がるほど密度が大きくなり重くなっていく性質があります。
つまり、溶け込んでいる塩分が同じでも水温が下がれば密度(比重)も変わってくるのです。
これは水温による水の膨張や気圧などが複雑に絡み合って起きる変化に起因しています。
そのメカニズムについては非常に複雑な理屈があるのですが、水槽内においては水温によって水の膨張や収縮が起こることによって海水の密度が変化するということを把握していれば問題ないかと思います。
このことから、比重を測る際には水槽内の水温を確認しておくことが重要になってくるのです。
基準となる水温について
ここまで読むと「海水の比重を測るのは大変そう……。」と思われるかもしれませんが、比重を測る海水の水温という要点さえ押さえておけば大丈夫です。
その水温は、おおよそ23~25℃。
これは流通の多く見られる熱帯海域の海水魚やサンゴの飼育を基準とした水温です。
人工海水のメーカーも、この範囲での使用を主に想定しています。
屈折計の項にも書きましたが、比重計にも製品によって基準とする適正水温が設定されているものがあります。その適正水温を必ず確認してから比重を測るようにしましょう。
比重計のメンテナンスと使い方
海水を測る前に必ず真水で計測
全ての比重計に共通する使い方となりますが、海水の計測を行う前に必ず真水を測り数値にズレが生じていないか確認しましょう。
飼育機材はそろっていて環境は悪くないはずなのに、水換え後に海水魚やサンゴなどの調子が急に悪くなることがあります。そんなときは比重計に異常が生じて正確な数値を出せなくなっており、比重が高すぎたり低すぎる状態になっている可能性があります。
そのため、海水の計測前に真水を測って比重が1.000を示すことを確認してから、海水の比重を測るようにしましょう。
使用後の水洗いは必須
使い終わったら必ず真水で洗って塩分を除いておきます。
海水が付いたままだと蒸発して塩の結晶が付着します。コンパクト比重計ではフロート針がうまく動かなくなる、屈折計やデジタル比重計ではステンレス部品にサビが生じることがあります。
比重計の寿命を長く保つためにも使用後の洗浄は必ず行うようにしましょう。
校正をしよう!
屈折計やデジタル式は数値にズレが生じた場合、校正を行うことで数値を正常に戻すことができます。
真水を計測した際に1.000からズレた数値が出てしまったときは、すぐに校正を行いましょう。
デジタル式は専用の校正液を使いますが、いつでも校正ができるよう予備を必ず用意しておきましょう。
まとめ
海の生物を飼うために重要な役割を持っている比重計。
正しく使うためには比重計の種類と特性、海水の比重が水温によって変わることをしっかりと把握しておきましょう。
理屈の部分まで掘り下げると複雑な話になってしまいますが、ポイントを押さえて使えば難しいことはありません。
比重計の使い方をマスターしてマリンアクアリウムを楽しみましょう!
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