ゆらゆら揺れるイソギンチャクの優雅な姿と、そこに潜り込むクマノミたちの微笑ましい光景。
思わず時間を忘れて眺めてしまいたくなりますが、そんな光景を見るためにはいくつかの押さえるべきポイントがあります。
今回は共生イソギンチャクを飼育するために必要な用品と、その理由。
そして日常管理について重要なポイントを解説していきます。
実はサンゴの仲間
イソギンチャクがサンゴの仲間ということをご存じでしょうか?
一般的にあまりそのイメージは強くありませんが、実はイソギンチャクは六放サンゴと呼ばれるグループに分類される生物で広義のサンゴの仲間になります。
多くのサンゴの仲間はポリプと呼ばれる一個体が多数連結して群体と呼ばれる形態を取っています。
ところがイソギンチャクはそんなサンゴの仲間にあって群体を作らず、ポリプ単独のままで一生を過ごします。
そのため、体の構造もよく見るとサンゴのポリプと同じ作りをしているのです。
単独のポリプで生活するサンゴはクサビライシの仲間やチョウジガイの仲間などがいますが、イソギンチャクの特異なところは単独生活をするだけでなく「自由に動き回れる」という点にあります。
この「単独のポリプで自由に動き回れる」という性質はイソギンチャクを飼育するうえで重要な要素となる部分でもあるので、その点を憶えておきましょう。
イソギンチャクを飼うために必要な機材とポイント
イソギンチャクはサンゴの仲間です。
そのイソギンチャクを健康に飼育するために押さえるべきポイントはサンゴの飼育とほぼ同じです。
そのポイントは主に4つあります。
ここでは、その4つのポイントに対応する機材を紹介します。
※オーバーフローではない一般的な水槽を想定
①光 ⇒ サンゴ用LED
共生イソギンチャクは好日性サンゴと同じく体内に褐虫藻と呼ばれる藻類を共生させています。
この褐虫藻が光合成によって合成する栄養を分けてもらっています。
「じゃあ、イソギンチャクには白い光を当てればいいの?」というと、必ずしもそうではありません。
サンゴには蛍光色を持つものがいますが、イソギンチャクにも蛍光色を持つものがいます。
この体色の違いによって光の色を変える必要があります。
蛍光色を持たないものは水深10m以内の浅い場所に適応した個体が多く、白色光でも問題ありません。
しかし、蛍光色を持つものは水深が10mよりも深い環境にいることが多いため、青みを帯びた光を当てる必要があります。
海の中は水深によって届く光の色が変わります。
サンゴやイソギンチャクの蛍光色はこのような光環境に適応した結果、獲得していったものなのです。
※届く深さは海域や水質などの条件によって変化します
体色に応じた適切な光を当てなければ、せっかくの美しい蛍光色も薄れてしまいます。
さらに蛍光色が薄れることで、イソギンチャクが褐虫藻から栄養を受け取れなくなり成長阻害が起きてしまうことにもつながります。
飼育するイソギンチャクの体色によって照明の色合いを決めましょう。
▼サンゴ用の光についてこちらでも解説しています。併せてお読みください。
②水流 ⇒ サーキュレーター(水流ポンプ)
イソギンチャクにとって重要でありながら見過ごされがちな要素、それは水流です。
サンゴもイソギンチャクも海中のうねるような水流に代謝を依存しています。
適切な水流がなければ海水中の酸素や微量元素の取り込みと排せつが上手く行えず、弱ってしまいます。
イソギンチャク飼育の初心者がつまづきやすいポイントも実はここなのです。
イソギンチャクにとって理想的な水流とは、一方向に流れる水流ではなく「触手が前後左右にユラユラ揺れるような水流」です。これは一般的なアクアリウム用のポンプでは作れません。
そこで活躍するのが水流コントローラー付きのサーキュレーター(水流ポンプ)です。
水流コントローラー付きのサーキュレーターはON-OFFを繰り返す間欠運転や、複雑な水流を作るためのプログラム運転の設定が可能になっています。これによってイソギンチャクに適した水流をかんたんに作ることができるのです。
「イソギンチャクの調子がいまいち良くならない」という場合は、そのほとんどが「水流」か「水質」に原因があることが多く見られます。
サーキュレーターを使われていない方は、ぜひ導入してみてください。
水質などに問題がなければ、これをプラスするだけでイソギンチャクの調子が上がるようになるかもしれません。
▼サーキュレーターについてこちらで詳しく解説しています。併せてお読みください。
③水質 ⇒ プロテインスキマー
海水水槽で水質維持の重要な立役者となるのがプロテインスキマーです。
微細な気泡であるファインバブルの作用によって水の汚れの元になる余分な有機物や増えすぎたバクテリアなどを排出する装置です。
このプロテインスキマーを使うことによって水の汚れを軽減させるだけではなく、ベンチュリー式であれば強力なエアレーション効果も備えているため好気性バクテリアが増殖しやすくなります。
これらの機能によりイソギンチャクの大敵ともいえるビブリオ菌などの病原性細菌類の増殖を抑える働きもあります。
プロテインスキマーはイソギンチャクに適した清潔な環境を作る要となる存在でもあるのです。
プロテインスキマーは急激な水質悪化を防ぎ、酸素も供給する重要な機材です。
海水水槽はちょっとした水質の悪化で連鎖的に生物が死んでしまう水槽崩壊につながりやすい面がありますが、プロテインスキマーはそういった水質悪化による事故を未然に防いでくれる保険としても機能してくれます。
しっかりした性能を持つものを1台導入するだけで、イソギンチャク飼育のハードルがぐんと下がります。
設置するプロテインスキマーは水量に対して必ず十分な性能を持つものを選びましょう。
▼プロテインスキマーについてこちらで詳しく解説しています。併せてお読みください。
④水温 ⇒ 水槽用クーラー
イソギンチャクとサンゴは高水温に非常に弱く、水温が30℃を超えないような環境づくりが必須になります。水温の上限は28℃より上がらないようにしましょう。
水温が30℃を超えるとイソギンチャクの体内に共生している褐虫藻が抜け出して白化してしまいます。
さらにイソギンチャクに害をなすビブリオ菌が活発に活動し始めることから、イソギンチャクにとって非常に危険な環境となります。
近年では気温が40℃に達する猛暑も珍しいものではなくなってきたことから、エアコンで室温を下げつつ水槽用クーラーを使用して水温を安定させる使い方がおすすめです。
エアコンで室温管理するなら水槽用クーラーが必要ないように思えますが、エアコンのみでは外気温の影響で水温が変動してしまうことがあります。
イソギンチャクとサンゴは水温の変動を嫌うので、目的の設定でしっかりと水温を固定させるために水槽用クーラーを使うのです。
なお、水槽用クーラーには循環用のポンプが付いていないので別途用意する必要があります。
使用するクーラーによって必要な組み合わせが変わるため、その点をしっかり確認しましょう。
日常管理のポイント
機材がそろったら次は日常管理で重要になるポイントです。
①イソギンチャクは栄養の要求量が大きい
従来、好日性のイソギンチャクは体内に褐虫藻を共生させていることから給餌の必要はないと言われてきました。しかし、入荷状態や褐虫藻の保有量によっては栄養が不足してしまうことがあります。
冒頭でも解説しましたが、イソギンチャクは「単独で動きまわることのできるサンゴの仲間」です。
一か所に固着して動かない一般的なサンゴに比べて自分自身で動き回ることができることからエネルギーの消費量が高く、褐虫藻による栄養供給が追い付かなくなることが起こります。
そして水槽内の海水には自然の海で豊富に存在するアミノ酸などの有機栄養素やプランクトンがほとんど存在していません。
また、入荷状態によっては褐虫藻が抜けた状態になっているものもしばしば見かけます。
白い体色が一見美しいシライトイソギンチャクがその代表です。
クリアーな蛍光色が美しいイソギンチャクも褐虫藻は抜けて少なめになっています。
こういったイソギンチャクたちは、褐虫藻がある程度増えてくるまでは光合成だけでは栄養が不足します。そこで活躍するアイテムがサンゴ用の栄養剤です。
栄養が不足しているのであればエサを与えたくなりますが、水槽導入直後の給餌は基本NGです。
人間でも体調を崩したときは食欲が落ちるようにイソギンチャクも同様で、固形物のエサでは消化に体力を使ってしまいます。
また、消化しきれなかった残り餌が水を汚す原因にもなります。
サンゴ用の栄養剤は水を汚しにくくイソギンチャクが吸収しやすいレシピになっているのが特徴で、水槽導入直後の弱ったイソギンチャクのトリートメントに非常に適しています。
水槽導入直後からしばらくはサンゴ用栄養剤を与えて体力の回復に努めましょう。
リーフエナジー
サンゴ用栄養剤とリキッドフードの違いは、ひとことで言うなら「点滴」と「流動食」の違いのようなものです。
サンゴ用栄養剤は主に体力を回復させる用途として。
リキッドフードは製品毎の違いはありますが、体を成長させるための栄養素が中心となっていることが多いので目的に応じて使い分けましょう。
サンゴ用栄養剤 |
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特徴 |
ビタミン、糖類、アミノ酸など消化を最小限に抑えた構成。 弱っている個体の体力回復用にも使える。 |
使い方 |
導入直後のトリートメントにおすすめ。 日常管理でサプリメント的な使い方もOK。 |
リキッドフード |
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特徴 |
プランクトンなど消化が必要な原料を使用。タンパク質や必須脂肪酸が豊富で高カロリー。 |
使い方 |
増体用の主食として。 基礎体力が整ってきた個体の成長促進に。 |
②サーキュレーター事故に注意!
イソギンチャクの飼育トラブルでかなりの割合を占めるのが「サーキュレーターや循環ポンプによる巻き込まれ事故」です。
シライトイソギンチャクやロングテンタクルアネモネといった砂地を好むイソギンチャクは気に入った場所に定着するとほとんど移動しなくなります。
一方で、岩礁地帯を好むサンゴイソギンチャクやタマイタダキイソギンチャク、センジュイソギンチャクなどは快適な場所を探して常に動き回る性質を持っています。
この動き回っている最中にサーキュレーターや循環ポンプのストレーナー部分に吸い込まれてバラバラに引き裂かれてしまうという事故が起こります。
サンゴイソギンチャクなどの動き回るイソギンチャクを飼う場合は、この巻き込まれ事故に注意しましょう。
③水換えは少量を短い間隔で行う
イソギンチャク飼育における水換えは一度に大量の水を換えるのではなく、少量を短い間隔で行うようにします。これは一般的なアクアリウムの水換えと違って水の汚れを排出するためでなはく、海水に含まれる微量元素の補充という要素が大きい水換え方法です。
サンゴの仲間は海水中に含まれる微量元素を日々吸収しています。
イソギンチャクも例外ではなく、海水中から代謝や成長に必要な微量元素を取り込んでいます。
このような微量元素を補うための添加剤などもありますが、過剰に入れすぎてしまうと急激な水質悪化を招くリスクもあるため初心者にはハードルが高くなります。
そこで安全に微量元素を補給する方法が、人工海水での水換えになるのです。
まとめ
今回はイソギンチャクの飼育に必要な用品と日常管理のポイントについて解説してきました。
おさらいとして、設備面では①光、②水流、③水質、④水温の4要素。
日常管理では①栄養供給、②サーキュレーター事故の予防、③水換えの量とタイミングの3点。
これらを押さえればイソギンチャクの飼育もそれほど難しいものではなくなります。
これらの基礎さえ押さえてしまえば、ミドリイシなどのサンゴ飼育も夢ではありません。
イソギンチャクの飼育が上手くいかない!という方や、これからイソギンチャクの飼育を始めたい方は、今回解説した基礎部分が押さえられているかチェックしてみましょう!
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