共生ハゼの魅力
共生ハゼの世界へようこそ。
共生ハゼとは、テッポウエビの仲間と同じ巣穴に共生するハゼの仲間です。
ハゼは穴掘りが得意でないため、テッポウエビに巣穴を掘ってもらうことで安全を確保します。
一方でテッポウエビは視力が弱いため、視力に優れるハゼに外敵の見張りを任せています。
外敵が近くにいるときはハゼがテッポウエビの触覚にサインを送り、息の合ったコンビネーションで巣穴に隠れます。
このようにしてお互いにメリットがある共生を「相利共生」といいます。
ハゼとテッポウエビは全く別の生物でありながら、お互いの苦手なところをカバーしつつ、お互いに得意な性質を活かして共同生活を送っています。
共生ハゼは一般に流通する海水魚としては飼育のハードルも低く、はじめてでも比較的飼育しやすいグループです。
海水魚飼育の基本的な要素を抑えていれば十分飼育ができ、水槽内でも野生下で見られるような共生シーンを見せてくれます。
共生ハゼ自体も色彩の鮮やかな種が多く、流通が少ないものも含めれば選択肢は観賞用の海水魚としては多い部類に入ります。
分類上は全く異なる生物が、お互いに助け合って生き抜いていく自然の神秘。
この様子はご家庭の水槽でも観察できます。
ハゼとテッポウエビの不思議なコンビが織りなす、神秘的な共同生活の世界へ。
貴方を誘いましょう。
共生ハゼとは
共生ハゼとは、スズキ目ハゼ亜目ハゼ科に属する魚類のうち、「テッポウエビ類と共同生活を送るグループ」の総称です。
テッポウエビと共生関係にあるハゼであれば、全て共生ハゼと呼ばれます。
最大でも10cm以下となる種が多く、小型水槽で十分飼育が可能です。
共生ハゼの多くの種はサンゴ礁など暖かい海に分布しており、サンゴ砂の海底にテッポウエビが掘った巣穴の中で共同生活をしています。
なお、全てのハゼがテッポウエビと共生するわけではありません。
テッポウエビと共生する性質を持つハゼのみが、共生ハゼと呼ばれます。
ハゼとテッポウエビそれぞれにおいて、一部の種で共生を行うものが存在する形となっています。
ハゼとテッポウエビの間には相性関係があるようで、どのハゼとテッポウエビの組み合わせでも共生するわけではないようです。
基本的には種ごとに共生しやすいハゼとテッポウエビがおおよそ決まっています。
これに加えて、個体間の相性もあるようです。
種類によって共生しやすい、しにくい組み合わせはありますが、100%絶対に共生する組み合わせは存在しません。
テッポウエビとは
テッポウエビとは、十脚目テッポウエビ科に属するエビの仲間です。
共生ハゼを語る上では欠かせない存在で、共生ハゼにとっては大切なパートナーです。
テッポウエビは巣穴を掘るのが大得意です。
エビ類のなかでも掘削に特化しており、みるみるうちに巣穴を拡張していきます。
一晩でライブロック周辺の巣穴が凸凹に工事されていることも珍しくありません。
また、「テッポウ」の名前の通り衝撃波を放つこともできるのが特徴です。
野生下で狩りをするときは、大きく変化したハサミから衝撃波を放ち、微生物を仕留めて食べているようです。
水槽内でも時折“カチカチ”と音が聞こえることがありますが、これはテッポウエビがハサミを鳴らしている音です。
狩りだけでなく、コミュニケーションにも使われているといわれています。
観賞用として流通するのは主に「ランドールピストルシュリンプ」「ニシキテッポウエビ」「コシジロテッポウエビ」の3種です。それ以外の種の流通はまれです。
一般に、5cm以下の小型種は「ランドールピストルシュリンプ」、それ以上の中型種は「ニシキテッポウエビ」または「コシジロテッポウエビ」と相性が良い傾向があります。
共生ハゼの魅力
唯一無二の共同生活
ハゼとテッポウエビの共同生活といった、かけ離れたグループ同士での共同生活を送る様子を見られるのは共生ハゼグループだけの特権です。
一般家庭での飼育でも、この共同生活は観察できます。
これを見るためだけでも、飼育する価値のあるグループといえるでしょう。
意外と飼育しやすい
共生ハゼは海水魚としては飼育のハードルが低めです。
水質の変化や悪化に対して比較的強く、クマノミと同等かそれ以上に丈夫です。
海水魚の飼育において悩みの種となりやすい、拒食のトラブルもほぼありません。
はじめての海水魚飼育にもおすすめできるグループです。
主な共生ハゼ
比較的流通が見られる、主な魚種をピックアップして紹介します。
ヒレナガネジリンボウ
学名:Stonogobiops nematodes
白地の体を巻くように黒いラインが入るのが特徴のユーモラスな共生ハゼです。
目の前方は黄色く染まります。
共生ハゼとしては小型種で、最大でも体長4cm程度にしかなりません。
オスは背ビレが非常に長く伸長し、これがヒレナガと呼ばれる由来となっています。
ヤシャハゼ
学名:Stonogobiops yasha
背ビレの第1,2条が伸長し、体に赤いラインが入る人気の共生ハゼです。
腹ビレの先端に入る黒点で雌雄が分かり、黒点があるほうがオス、ないものがメスになります。
派手な色彩をしていますが小型種で、最大体長は5cm程度となります。
うまく共生するようになると、ハゼが巣穴の上でホバーリングする様子も観察することができます。
ギンガハゼ
学名:Cryptocentrus cinctus
鮮やかな黄色の体色と水色のスポットが美しい共生ハゼです。
星空のような美しさから、共生ハゼきっての美種として知られています。
本種には黄色の他にグレーの個体も存在することが知られています。
この色の差は単なる色彩変異であり、種としてはどちらも同種となるようです。
丈夫で飼いやすく見た目も美しいため、はじめて共生ハゼを飼う方にもおすすめできる種類です。
ヤマブキハゼ
学名:Amblyeleotris guttata
白地に山吹色のスポットが入る、繊細な美しさを持った共生ハゼです。
腹ビレや腹部周辺は真っ黒に染まります。
共生ハゼとしては比較的行動的で、水槽内を活発に動き回ります。
ハタタテシノビハゼ
学名:Ctenogobiops tangaroai
まっすぐに伸びる背ビレと、半透明の地肌に入る白とオレンジのドット柄が美しい共生ハゼです。
一般的な共生ハゼと比べると、やや深場で潮通しの良い海域に生息する傾向があります。
このためか、流通は他に比べると少なめです。
ニチリンダテハゼ
学名:Amblyeleotris randalli
背ビレに入る眼状斑が最大の特徴となる共生ハゼの仲間です。
うちわ状の背ビレは共生ハゼ全体としても珍しい形状です。
その中の輪っか状の模様を、日輪に例えたこの名が付いたのでしょう。
共生ハゼとしてはやや大型になり、10cm程度まで成長します。
比較的行動的な種で、水槽内でもよく動き回ります。
オーロラゴビー
学名:Amblyeleotris aurora
淡い紅白の色彩が浮く強い共生ハゼです。
日本に分布するヤノダテハゼのインド洋版といえる位置づけにある種で、目の下と尾ビレに紅いスポットが入るのが最大の特徴です。
やや暗めの環境で飼育すると、体色が濃くなりいっそう美しい姿になります。
クビアカハゼ
学名:Amblyeleotris wheeleri
紅白のバンド柄をベースに、地色とは異なる紅白のドットを組み合わせた、オシャレな印象の共生ハゼです。
紅いバンドの上には白いドット、白い顔には赤いドットが入るのが何とも芸術的な印象を与えます。
本種はさまざまなテッポウエビとの共生が見られるようです。
ただし、共生ハゼとしては流通量が少なめです。
共生ハゼ飼育の基本
基本的な海水魚飼育用の設備がそろっていれば、問題なく飼育できます。
ハゼとテッポウエビが共生する生態を観察したい場合は、大小異なる粒サイズの底床を混合して使用するのがポイントです。
この点以外はごく基本的な海水魚飼育と同様です。
水槽の選択
特に選びません。
フィルターが設置できるものであれば、どのサイズでもOKです。
30cmキューブ水槽で1匹、60cm水槽で2~3匹が目安です。
共生ハゼは最大でも10cm以下となる小型種が多く、共生の観察をメインとする場合はあまり混泳に向いていません。
大型水槽で飼育すると行方不明になりがちなので、小型水槽での飼育が向く魚種といえるでしょう。
フィルター、照明が付いたセットなら、より安心して始めることができますね。
フィルターの選択
上部式フィルターまたは外部式フィルターが良いでしょう。
30cm以下の小型水槽の場合は、プロテインスキマー機能付きの外掛け式フィルターがベストです。
共生ハゼとテッポウエビの組み合わせのみを飼育するのであれば、オーバーフローほどの高度な設備は不要なことが多いです。
プロテインスキマーの選択
飼育生体の数が少ない場合は必須ではありませんが、可能であれば設置しておくことをおすすめします。
目安としてハゼとテッポウエビの組み合わせが3ペア以下で、他に生体を何も入れないのであればなくても飼育は可能でしょう。
共生ハゼは元々水質の変化・悪化には強めの魚種です。
フィルターにプロテインスキマー機能が付いていない場合は、水槽サイズに合った外掛け式のプロテインスキマーを1台設置しておくと良いでしょう。
底床の選択
共生ハゼの飼育において最重要といえる部分です。
単純にハゼだけ飼育するのであれば何も敷かなくても構いませんが、最大の魅力であるテッポウエビとの共同生活を自然下に近い状態で観察するには、大小異なるサイズの底床を混ぜて使うことが重要です。
具体的には、粒サイズ1~2mm程度の小粒のサンゴ砂と、15~20mm程度の大粒のサンゴ砂をブレンドするのがベストでしょう。
異なる粒サイズのサンゴ砂を入り混じっていることが、テッポウエビが巣穴を作成する上で最も理想的な条件となります。同じサイズの粒しかない環境だと、巣穴を作りにくいようです。
また粗目のサンゴ砂には、バクテリア付の製品もあります。
バクテリア付で水槽をスピーディーに立ち上げることができるため、小粒のサンゴ砂をベースにこちらを混ぜるのも有効です。
また、巣穴を作りやすい条件は底床だけでは決まりません。
ライブロックを置いておくと、その根本付近に作成することが多いです。
100%狙った場所に巣穴を作ってくれるわけではありませんが、底床のブレンド具合とライブロックの配置次第では、ある程度誘導することは可能です。
餌
顆粒またはフレークの人工飼料が良いでしょう。どちらを与えてもよく食べます。
海水魚は餌付けに苦労することも多いですが、共生ハゼに関してはエサでトラブルを起こすことはほとんどありません。
与えれば、すぐに餌付いてくれることが多いです。
テッポウエビに関してはハゼのエサのおこぼれや、ライブロックなどに発生する海藻や微生物などを食べているようです。
このため、エビ専用に特に餌を与えなくとも、全く問題なくハゼと共存します。
混泳
魚との混泳
ハゼとテッポウエビの共同生活の観察をメインにしたい場合は、他魚種との混泳はおすすめできません。
遊泳性ハゼまたはギンポ・カエルウオ系のグループであれば、共同生活の観察をメインとした場合でも混泳が可能な場合もあります。
遊泳ハゼの一部の種では、野生下では共生ハゼの巣穴に「居候」することが知られています。
共生ハゼとテッポウエビはお互いに見張り番と巣穴の拡張の役割を担っています。
しかし、その巣穴にやってくる遊泳ハゼに関しては、特に何か役割があるわけではありません。
特に見張りや巣穴の拡張を手伝うわけでもないようですが、共生ハゼも特に遊泳ハゼを追い払うようなことはしないようです。
遊泳ハゼが巣穴にやってくるときは近くに外敵がいる可能性が高いため、警戒の一部として活用しているのかもしれません。
水槽内でもこの三者の不思議な生態を見ることは可能です。
藻類を主食とするギンポの仲間は、混泳相手としてはむしろ推奨できるグループです。
ただし遊泳性ギンポは肉食傾向が強いため、混泳には不向きです。
ガラス面やライブロックなどに生えるコケを積極的に食べてくれるため、クリーナーとして活躍します。
巣穴に近づくとハゼに追い払われてしまうこともありますが、基本的にはお互いに危害を加えることはありません。
遊泳ハゼやギンポの他にも、サイズが同程度で攻撃性のない魚種であれば混泳は可能です。
しかし、この場合ハゼの警戒が強くなります。
外敵が近くにいる場合は巣穴に隠れる性質上、引きこもりがちになってしまいます。
共生ハゼとテッポウエビの組み合わせだけで飼育しておくと、巣穴から出てきてくれやすくなります。
共生ハゼを中心に考える場合は、遊泳ハゼやギンポ以外の魚種とは混泳させないほうが良いでしょう。
テッポウエビを入れずに単純にハゼ類の一種として飼育したい場合は、サイズが同程度で温和な魚種とであれば他魚種と混泳させても構いません。
その代わり、本来の生態は観察できなくなります。
エビとの混泳
共生ハゼの鑑賞面での本領は、テッポウエビと混泳させてこそ発揮されます。
ハゼの種類とエビごとに相性があり、各種との相性は次の通りです。
なおランドールピストルシュリンプ、ニシキテッポウエビ以外の入荷はまれです。
相性が良いとされる組み合わせであれば基本的に共生してくれますが、個体サイズの差が大きかったり、性格的な相性によっては必ずしも100%共生が成立するわけではありません。
相性が良いとされる組み合わせで共生しなかった場合は個体の性格によるものと思われるため、テッポウエビを複数匹導入すると解決することがあります。
この場合、水槽サイズは45~60cmはあったほう方が望ましいです。
入荷が少なく情報も少ない種の場合、相性関係が不明なことや、そもそも共生が成立しない場合もあります。
サンゴとの混泳
共生ハゼとサンゴの相性はあまり良くありません。
テッポウエビは頻繁に巣穴の拡張工事を行い、一晩で地形が変化してしまうことがよくあります。
これによりライブロックの一部を埋め立ててしまうこともあります。
もしサンゴがライブロックの根元に生えていれば、サンゴごと埋め立てられてしまうでしょう。
サンゴを入れる場合はウミトサカやウミキノコなど比較的丈夫なソフトコーラルを選び、ライブロックの頭頂部に固定すると良いでしょう。
工夫次第では、共存させて楽しむことも可能です。
共生ハゼ用語集
相利共生・・・お互いに利益のある共生関係です。
ハゼは巣穴を掘れませんが、巣穴を掘ることが得意なテッポウエビの力を借りて巣穴を拡張します。
一方で、視力の弱いテッポウエビに代わって、外敵が近くにいないか監視する見張り番の役割を視力の良いハゼが行います。
外敵が近くにいるとテッポウエビの触覚にサインを送り、共に巣穴に隠れます。
外敵が去るともう一度テッポウエビの触覚にサインを送り、危険が去った旨を知らせてくれるので、安全に巣穴の拡張工事を再開できます。
片利共生・・・一方の共生生物にしか利益のない共生関係です。
共生ハゼとテッポウエビの巣穴に居候することがある遊泳ハゼの一部の種は、巣穴の拡張も見張り番も行いません。一方的に隠れ家として利用しているようです。
泥ハゼ・・・共生ハゼの一部の種では、底床がサンゴ砂ではなく砂泥質の海底に生息するものもいます。
マニアやダイバーの間では、そのような性質を持つ種を総称して「泥ハゼ」と呼ばれています。
泥ハゼ系の種に関しては、本来の生態を観察する場合にはパウダータイプのサンゴ砂か、目の細かい砂泥質の底床を使用すると良いでしょう。
※ハゼとテッポウエビの組み合わせには相性があります。
相性次第では、共生しない場合もあります。
※すべてのテッポウエビが
共生する性質を持つわけではありません。
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