共生イソギンチャクの魅力
共生イソギンチャクの世界へようこそ。
イソギンチャクは磯に行くと必ず見かける生きものであると同時に、クマノミが一緒にいる印象も強いかと思います。
今回紹介するイソギンチャクたちは、そんなクマノミと共生することを選んだ種類たち。
花のように美しい触手がゆらゆら水流に揺らめいている姿は、まさに幻想的といえる光景を見せてくれます。
それだけでなく、クマノミの仲間が潜り込んでリラックスしている姿はなんとも微笑ましいものです。
イソギンチャク自身にフォーカスすると、長く揺らめく触手を持つもの、太短い触手が密生しカーペットのようなひらひらした姿を持つものなど千差万別。
さらに同じ種類でもカラーバリエーションが豊富で、派手な蛍光色を持つものもいます。
そのコレクション性の高さは古くから多くのマリンアクアリストを魅了してきました。
同じ種類でも個体の持つ個性はさまざま。
清楚でかわいらしい種類から、妖しくも蠱惑的な美しさを持つものまでいる深淵の縁へ。
貴方を誘いましょう。
共生イソギンチャクとは
分類 | 六放サンゴ亜綱イソギンチャク目 |
体長 | 種類によって差があり |
食性 | 褐虫藻との共生、肉食~プランクトン食 |
主な原産地 | 世界中の温帯~熱帯海域 |
イソギンチャクとは刺胞動物門 花虫綱 六放サンゴ亜綱 イソギンチャク目の動物の総称。
分類に六放サンゴ亜綱とあるように実は立派なサンゴの仲間だったりします。
また、刺胞動物門なのでクラゲの遠い親戚のようなもの……と思うと不思議な感じがしますね。
イソギンチャクがサンゴの仲間として特異なのは、ある程度自分で動き回れるということ。
多くの種類が1カ所に固着して生涯を送ることを選ぶサンゴの仲間としてはかなりの変わりものです。
さらに今回紹介するイソギンチャクたちは触手の刺胞毒で獲物を捕食するグループの中にあってクマノミと共生するという生き方を選んだ、ある意味変わりもの中の変わりものだったりします。
イソギンチャクがクマノミとの共生を選んだ理由はいくつか考えられています。
クマノミを外敵から守る代わりにエサを運んできてもらう、掃除をしてもらうなど推測されてきましたが、近年の研究ではかなり複雑な共生関係にあることが判ってきました。
このようにイソギンチャクとクマノミの共生だけでなく、そこに褐虫藻も絡んだ複雑な共生関係があることが判明しています。
主な共生イソギンチャク
クマノミと共生するイソギンチャクもさまざまな種類がいます。
ここでは、比較的安定した入荷が見られる人気種をピックアップして紹介します。
サンゴイソギンチャク
学名:Entacmaea quadricolor
日本近海でも房総半島以南の海で見られるイソギンチャクです。
日本のアクアリウム市場ではクマノミと共生するイソギンチャクとしては最もポピュラーな種類です、共生イソギンチャクとしては最も丈夫で飼いやすい部類に入ります。
見た目の特徴は触手の中間が丸く膨らむことと触手に連続した線状の模様が入ること。
このラインの有無が近い種類との見分けるポイントのひとつになります。
定着場所は特に定まっておらず、水流や光などそのときの好みの場所を求めて水槽内を動き回ります。
有性生殖だけでなく分裂によるクローン増殖も行うことが知られています。
この仲間の注意点として、水槽内をよく動き回るのでフィルターの吸水パイプやサーキュレーター(水流ポンプ)に吸い込まれないように注意する必要があります。
サンゴイソギンチャク バリエーション
学名:Entacmaea quadricolor
実は日本近海に生息するサンゴイソギンチャクには2種類いるとされています。
ひとつは前述のサンゴイソギンチャク。
もう1種類はオオサンゴイソギンチャクの名前が付けられています。
※現在は学術的にquadricolor1種と見なされています。
サンゴイソギンチャクと異なる、主な特徴は下記の3点です。
それ以外の主な性質はサンゴイソギンチャクとほぼ同じと見て良いようです。
サンゴイソギンチャクを好むクマノミ
※野生個体を基準としたもの ブリード個体はこの限りではありません
タマイタダキイソギンチャク
学名:Entacmaea quadricolor
日本近海では沖縄以南の海で見られます。
サンゴイソギンチャクタイプ(E. quadricolorとされるもの)のなかでは最も広範な海域に生息している種類で、好むクマノミ種類数も共生イソギンチャク中で最も多いイソギンチャクです。
太平洋~インド洋に生息するクマノミでは16種類が確認されています。
見た目の特徴は触手の先端が丸く膨らむことと、触手に線状の模様が入らないこと。
基本的な性質としてはサンゴイソギンチャクとほぼ同じです。
しかし、タマイタダキイソギンチャクのほうがより南方の熱帯海域に生息することから低温に弱い面があります。
水温が18℃より下回ってしまうと体組織が徐々に崩壊するようにして死んでしまいます。
この症状が出ると回復しないため、冬場の輸送や停電時などは特に注意しましょう。
タマイタダキイソギンチャク バリエーション
タマイタダキイソギンチャクを好むクマノミ
※野生個体を基準としたもの ブリード個体はこの限りではありません
バブルチップアネモネ / サンゴイソギンチャクsp.(近似種)
学名:Entacmaea quadricolor
サンゴイソギンチャクとして販売されているイソギンチャクには複数種類の近似種が含まれています。
※学術的にはタマイタダキイソギンチャクを含めてEntacmaea quadricolor1種とされています。
和名ではウスカワイソギンチャクとも呼ばれるタイプで、海外ではこのグループをまとめてバブルチップアネモネと呼んでいます。
チャームでもサンゴイソギンチャクsp.の名前で販売されているものは、このタイプのものです。
見た目の特徴は触手の模様が破線状でつながっていないこと。
種類によっては線状にならないランダムなスポット状になるものもいます。
見た目の模様に違いがあるだけで基本的な性質はサンゴイソギンチャクと同じものが多いです。
ですが、海外から輸入されてくるものは熱帯海域産のためタマイタダキイソギンチャク同様に低温に弱い面がある個体が多いようです。
バブルチップアネモネ / サンゴイソギンチャクsp. バリエーション
バブルチップアネモネ / サンゴイソギンチャクsp.を好むクマノミ
※野生個体を基準としたもの ブリード個体はこの限りではありません
流通の見られるサンゴイソギンチャクの仲間の見分け方です。
和名での違いは下記のような区別になります。
触手に途切れた破線状の模様が入る
触手の中間が大きく膨らむ
触手に途切れた破線状の模様が入る
さらに大きめのランダムなスポット模様が入る
このように大きく3つのパターンに分けられますが、実際に入荷するこれらの仲間はそれぞれの中間型ともいえる特徴をもったものも数多く存在します。
これだけの模様や形態の違いがありながら、現在の分類ではEntacmaea quadricolor1種とされています。
ただ、遺伝子の解析とそれに基づいた分類はまだ行われていないようで、今後の研究では細かく分かれる可能性もあるようです。
触手形状はタマイタダキイソギンチャクだが
触手に薄く破線状の模様が入る
タマイタダキ × ウスカワの中間型?
触手形状はサンゴイソギンチャク
繋がった線状と途切れた破線状が入り混じった模様
ウスカワ × サンゴの中間型?
シライトイソギンチャク
学名:Heteractis crispa
日本でも奄美大島以南の海で見られるイソギンチャクです。
太平洋~インド洋とセンジュイソギンチャクに次いで分布域が広く、好んで入るクマノミの種類も多いイソギンチャクです。
アクアリウム市場でシライトイソギンチャクの名前で流通するものには複数種類の近縁種や形状の似た別種が含まれます。
本来のcrispa種は触手が長く伸び、先端に行くにつれて細くなるものが該当します。
沖縄便や海外便でさまざまな種類がシライトイソギンチャクの名前で入荷するため、正体不明のイソギンチャクも多々入荷します。
普段店頭で見かけるシライトイソギンチャクは小さめのかわいいサイズをよく見かけますが、自然の海では直径1m近いものも見られるほどの大型イソギンチャクです。
なお、販売されるものには褐虫藻の抜けた真っ白な個体が多く、水槽内では得られる栄養が少ないため大型化するのは稀です。
定着場所は主に砂地を好み、一度定着するとあまり動きません。
シライトイソギンチャク バリエーション
チクビイソギンチャク
学名:Heteractis crispa? Radianthus lobatus?
よく見かけるタイプのシライトイソギンチャクで、別名チクビイソギンチャクとも呼ばれます。
crispa種と比べると触手が太短い外見をしていることから日本ではRadianthus lobatusの学名で呼ばれることもありますが、海外ではシノニムとされているようです。
飼育するうえでの性質はシライトイソギンチャクと同じです。
ツマリシライトイソギンチャク
学名:Heteractis crispa?
沖縄便で入荷することの多いシライトイソギンチャク。
crispa種の触手をそのまま短く詰めたような形態をしているため和名ではツマリシライトイソギンチャクと呼ばれています。
足盤が黄色くなる点も通常のシライトイソギンチャクと違う特徴です。
外見的な特徴からAntheopsis koseirensisのようにも見えますが詳細は不明です。
キッカイソギンチャク
学名:Antheopsis koseirensis
伊豆半島以南で見られるイソギンチャクです。
シライトイソギンチャクによく似ていますが別種です。
砂地を好み、一度定着するとなかなか動きません。
また非常に丈夫なイソギンチャクで、高価ながらビギナーでも飼いやすいイソギンチャクです。
触手の先端がグリーンになるタイプもいます。
アジサイイソギンチャク
学名:Antheopsis cooki
キッカイソギンチャクのグリーンタイプとも呼ばれるイソギンチャク。
違いは触手が太短く丸っこくなることで、キッカのグリーンタイプと区別ができます。
性質はキッカイソギンチャクとほぼ同じで、本種も非常に丈夫です。
ジュズダマイソギンチャクsp.
学名:Heteractis sp.
触手は太短くシマ模様が入り、ほとんどくびれません。
本来のジュズダマイソギンチャク(H. aurora)とは別種で、正体不明の海外産イソギンチャクです。
海外のフォーラムではH. aurora × maluの交雑種ではないか?とも言われている謎多きイソギンチャクです。
性質は他のシライトイソギンチャクとほぼ同じです。
シライトイソギンチャクを好むクマノミ
※野生個体を基準としたもの ブリード個体はこの限りではありません
ロングテンタクルアネモネ
学名:Macrodactyla doreensis
シライトイソギンチャクと並ぶ、よく見かけるイソギンチャクです。
英名の印象が強いですが、実は伊豆半島以南の日本近海にも生息している種類で、マバラシライトイソギンチャクの和名を持っています。
入荷時に衰弱している個体は弱い面がありますが、体力の付いた個体は丈夫で飼いやすいイソギンチャクです。ある意味で購入時に状態の見極めが必要な種類です。
状態の見極めポイントは足盤に破れや傷がないことで、傷が多い個体は体力が減って衰弱してきています。店頭で購入するときは足回りの状態をよく確認しましょう。
ロングテンタクルアネモネ バリエーション
シライトイソギンチャクを好むクマノミ
※野生個体を基準としたもの ブリード個体はこの限りではありません
センジュイソギンチャク
学名:Radianthus ritteri(日本での扱い)
もしくはHeteractis magnifica(海外での扱い)
日本では奄美以南の海に生息する大型イソギンチャク。
太平洋~インド洋にかけて広く分布しています。
サンゴイソギンチャクの仲間のような見た目と性質を持っていますが、分類的にはシライトイソギンチャクに近いとされる変わりもの。
(※日本ではRadianthus ritteriとされますが、海外ではHeteractis magnificaのシノニムとされているややこしい事情があります・・・・・・。)
タマイタダキイソギンチャクに次いで共生するクマノミの種類が多いイソギンチャクでもあります。
太平洋~インド洋に生息するクマノミ中、11種類が共生することが確認されています。
大きくて見応えもありますが、この巨体で水槽内を動き回る性質を持っています。
死因の半数はポンプへの吸い込まれ事故と言ってもいいくらいに、水槽内を動き回ります。
さらに水質にも敏感な面があるため、ビギナー向けのイソギンチャクとは言えません。
必要な設備や注意点の多さから中級者以上向けのイソギンチャクです。
飼育する場合は最低でも90×45×45cm水槽を用意し、サーキュレーターやフロー管などの水の吸い込み口に巻き込み防止のガードを付けるなどしてセッティングしましょう。
センジュイソギンチャク バリエーション
センジュイソギンチャクを好むクマノミ
※野生個体を基準としたもの ブリード個体はこの限りではありません
イボハタゴイソギンチャク
学名:Stichodactyla haddoni
日本近海でも紀伊半島以南の海で見られるイソギンチャク。
触手が太短く球状をしていることからイボハタゴイソギンチャクと呼ばれています。
ハタゴイソギンチャクに近い仲間ですが体力のある個体は比較的丈夫で、コツをつかめば比較的飼いやすいでしょう。
海外産のものはレッドやブルー、パープルなど派手なカラーも見られます。
飼育における注意点として、この仲間は刺胞毒が強く、クマノミ以外の魚は捕まって食べられてしまうことがあります。
捕まっている魚をすぐに放しても、刺胞が刺さった部分の体組織が壊死するため無事ではいられません。
そのため、イソギンチャクの刺胞毒に耐性のある魚でなければ混泳は避けたほうが無難です。
自然下ではサンゴ礁よりも潮通しの良い開けた砂地に生息していることが多く、好んで共生するクマノミは同環境に生息するトウアカクマノミやナミクマノミに近い仲間など多くはないようです。
イボハタゴイソギンチャク バリエーション
イボハタゴイソギンチャクを好むクマノミ
※野生個体を基準としたもの ブリード個体はこの限りではありません
ハタゴイソギンチャク
学名:Stichodactyla gigantea
沖縄以南の海に生息するイソギンチャクで、カクレクマノミとぺルクラクラウンが好んで共生します。
その様子からハタゴ=旅籠イソギンチャクと呼ばれています。
種小名にgiganteaの名前が付くとおり、自然の海では直系1m近い個体も確認されています。
飼育は共生クマノミの中でも最も難しく、入荷時の状態にかなり左右されます。
自然下では潮通しの良いラグーンでよく見られることから清浄な水質と強めの水流を好みます。
そのような環境に生息しているからか、水が汚れて微生物バランスが安定していない水槽ではビブリオ菌に浸食され生きたまま腐敗していくことがよく見られます。(ビブリオ病の発生)
輸送で体力が落ちた個体はビブリオ菌への抵抗力が大きく下がっているため、特に注意が必要です。
そのため、飼育にあたっては水質が安定しやすい大きめの水槽と、強力なプロテインスキマーを用意して清浄な水質を保てるようにしましょう。
ハタゴイソギンチャク バリエーション
ハタゴイソギンチャクも非常に刺胞毒が強い種類です。
混泳可能な海水魚はクマノミの仲間やスズメダイの一部など刺胞毒への耐性を持つ種類に限られます。
また、ハタゴイソギンチャクよりイボハタゴイソギンチャクのほうが刺胞毒が強いとされますが、人間に対しては体感的にハタゴイソギンチャクのほうが毒性が強い可能性があります。
手のひらなど皮膚の厚いところであれば素手で触っても問題ないことが多いですが、手の甲や腕など皮膚の薄いところで触れると激しく腫れあがります。
刺された時の症状は体質による個人差がありますが、かなりの痛みを伴います。
筆者がうっかり触れてしまったときの体感ではアシナガバチに刺されたのに近い痛みを感じ、腫れが治まるまで1週間以上かかりました。
これだけの毒性があることから、刺された場合に腫れて痛い思いをするだけでなく体質によってはアナフィラキシーショックを起こす可能性も0とは言い切れません。
万が一刺されてしまった場合、患部の腫れだけでなく気分が悪くなってくるようでしたら速やかに病院で診てもらいましょう。
ハタゴイソギンチャクを好むクマノミ
※野生個体を基準としたもの ブリード個体はこの限りではありません
イソギンチャク飼育の基本
イソギンチャクの飼育は種類によって設備が変わることがありますが、基本はソフトコーラルとほぼ同じです。
必要な用品もサンゴ飼育の入門と言えるものとなります。
水槽の選択
イソギンチャクの種類によって最大サイズが違うため、基本は飼育する個体の直径サイズから選んでも問題ありません。
ただし、センジュイソギンチャクとハタゴイソギンチャクに限っては余裕のある大きめの水槽を選びましょう。
また必要とする設備にプロテインスキマーがあることから、収容スペースに余裕があるオーバーフロー水槽の使用がおすすめです。
拡張機能も高く、ろ過槽に高性能なプロテインスキマーを設置できます
目的別の水槽サイズは下記の表をご覧ください。
イソギンチャクの種類と大きさ | 推奨サイズ |
直径20cm以下 サンゴイソギンチャク系 シライトイソギンチャク Sサイズ ロングテンタクルアネモネ Sサイズ イボハタゴイソギンチャク Sサイズ | 45cm水槽以上 (30cmキューブハイタイプも可) |
直径20~30cm シライトイソギンチャク Mサイズ ロングテンタクルアネモネ Mサイズ イボハタゴイソギンチャク Mサイズ センジュイソギンチャク S~Mサイズ ハタゴイソギンチャク S~Mサイズ | 60×45×45cm以上 |
直径30cm以上 シライトイソギンチャク M~Lサイズ ロングテンタクルアネモネ M~Lサイズ イボハタゴイソギンチャク M~Lサイズ センジュイソギンチャク M~Lサイズ ハタゴイソギンチャク M~Lサイズ | 90×45×45cm以上 |
フィルター、ろ過装置の選択
イソギンチャクはサンゴの仲間なので過剰な栄養塩による代謝異常を起こす場合があるため、栄養塩が蓄積しにくいセッティングにする必要があります。ろ過のメインは好気性バクテリアによる硝化作用を重視したものではなく、プロテインスキマーを使用したものとなります。
プロテインスキマー
プロテインスキマーは名前のとおり水中のタンパク質を取り除く器具です。
排せつ物や残餌は微生物によって分解されアンモニア(硝酸塩の素)やリン酸塩が発生します。
これらが微生物によって分解される前に排出してしまおうという器具がプロテインスキマーです。
イソギンチャクを長期飼育するためには性能の高いプロテインスキマーがしっかりと機能していることが重要です。
設置する水槽サイズに併せて、なるべく性能の高いものを導入しましょう。
プロテインスキマーの仕組みについてはこちらの記事で解説していますので、併せてお読みください。
非オーバーフロー水槽向けプロテインスキマー
現在主流のプロテインスキマーはベンチュリー式のインサンプ(投げ込み)型が主流になっています。
これはオーバーフロー水槽のろ過槽に設置することを前提に設計されているものがほとんどで、非オーバーフロー水槽では設置できるスペースがありません。
そのため、オーバーフロー水槽でなくても設置可能なハングオン(外掛け)式のプロテインスキマーを使用しましょう。
クーラーの選択
イソギンチャクはサンゴの仲間なので水槽用クーラーが必須です。
海は潮溜まりなどの閉鎖された特殊な環境でない限り、水温が30℃を超えることはありません。
水温が30℃に達する環境ではイソギンチャクを飼育することは原則不可能と言えます。
水槽用クーラーがない場合、夏場のルームエアコンは常に稼働させる必要が出てきます。
ルームエアコンで室温を調整しても水槽内の水温が変動する場合があります。
イソギンチャクを健康に飼育するためには安定した水温の維持が欠かせません。
必ず対応水量に余裕のある水槽用クーラーを選びましょう。
水槽用クーラーの選び方や使い方については、こちらの記事で詳しく解説しているので併せてお読みください。
淡水水槽でよく使われるクーリングファン。
水槽用クーラーと比べて安価な製品が多いことから海水水槽でも使用される方を見かけますが、実はデメリットが大きかったりします。
冷却ファンは、風を送り水を蒸発させた気化熱で冷やします。
そのため海水水槽でこれを使うと蒸発が激しくなり、海水の塩分比重の変動も大きくなります。
海水の塩分比重が不安定だと生体の体力を余計に消耗させてしまいます。とくにサンゴなどの無脊椎動物にとっては大きなストレスになります。
安定した環境で健康に育てるためには、飼育水の塩分比重を変動させにくい水槽用クーラーを使用しましょう。
水流について:サーキュレーターの使用
イソギンチャクはサンゴの仲間ですから呼吸や排せつなどの代謝を海のうねるような波の動きに依存しています。
そのため、水流の乏しい水槽ではうまく代謝ができずに衰弱しやすくなります。
イソギンチャクを飼育する水槽には必ず水槽内全体を循環する水流を作りましょう。
水流を作るのにもいくつかポイントがあります。
詳しくはこちらの記事で解説していますので、併せてご覧ください。
サーキュレーターの実際の使用例はこちらの動画から見ることができます。こちらも参照ください。
照明について
イソギンチャクもサンゴの一種であることから、さまざまな蛍光色素を持っています。
その蛍光色素をきれいに発色させるためには青い波長の光を多く含む照明を使用します。
特に蛍光色素を持っている個体には必ず青い光を当てましょう。
厳密には単純に青い光なら良いというわけではなく、主に500nm(シアン光)~近紫外線領域の光を当てることでサンゴやイソギンチャクの蛍光色素がきれいに出るようになります。
青い光(シアン光~近紫外線領域)を当てることでイソギンチャクの緑や赤などの蛍光色もキレイに出るようになります
蛍光色素の役割については複数の記事が書けてしまうほどの量になってしまうので今回は割愛しますが、かんたんに説明するならその蛍光色素に対応した波長の光を当てることで色がよりキレイに出るようになります。
逆に言うと蛍光色素に対応した光を当てないと、やがて蛍光色素は退色してしまいます。
イソギンチャクの蛍光色をキレイに出すためにも青い光が多い照明を当てるようにしましょう。
水質について
イソギンチャクが好む水質は一般的なソフトコーラルが好むもので大丈夫です。
pHの目安は8を超えるようにします。
pHが8を切って7台に入るようであれば酸性の物質である硝酸塩やリン酸塩などが蓄積してきています。
もしくは海水に溶けたカルシウムイオンや炭酸塩が不足している状態なので、まずは水換えを行いましょう。
アラゴナイト系カルシウム添加剤
イソギンチャク自身にカルシウムイオンはあまり必要ありませんが、どうしても飼育水のpHが7台になってしまう方はカルシウム系の添加剤を使いましょう。
使用上の注意点としては、カルシウム系の添加剤は使い慣れていないと急激なpHの上昇を招いてしまうことがあります。
添加剤の使用に不安がある方はアラゴナイト系の添加剤がpHとKHをゆっくりと上昇させて生体への負担が少ないのでおすすめです。
ただし、生体への負担が少ないとはいっても入れ過ぎは厳禁です。
環境の急変を招かないためにも1日1回、規定量以上は入れないようにしましょう。
安全にpHを上げるアラゴナイト系カルシウム添加剤
アラゴナイトベースの添加剤
ヨウ素も含んだアラゴナイトベース
ハードコーラルにも対応した成分配合
アラゴナイト系の添加剤にはカルシウム以外にサンゴが必要とするヨウ素やストロンチウムが配合されたものもあります。
これらはサンゴや微生物によって消費されやすい元素でもあるので、定期的な使用もおすすめします。
ヨウ素の添加剤を使うのが不安な方は、ヨウ素含有のパープルアップの使用がおすすめです。
カルシウム+マグネシウム強化型 人工海水
生体に負担の少ない添加剤とはいっても、やはり不安のある方はカルシウムとマグネシウム、KHが強化されたサンゴ用の人工海水を使う手もあります。
これなら水換えのみで添加剤を入れる手間はないので安心して使えます。
pH8以上をキープしやすいカルシウム強化型人工海水
ヨウ素添加剤+サンゴ用栄養剤
透明なヨウ化カリウムを含むものを使いましょう
弱ったイソギンチャクの体力回復に有効です
サンゴの仲間はヨウ素を必要とします。
その詳細なメカニズムは完全には解明されていませんが、共肉の代謝を活発化させるためにヨウ素を消費するといわれています。
特にイソギンチャクやソフトコーラル、LPSの仲間は共肉の量が多いためヨウ素の消費量も大きいようです。さらに無脊椎動物や微生物、藻類も消費するため、ヨウ素は海水中から枯渇しやすい面があります。
そのため定期的な換水によって補うか、添加剤などでヨウ素を供給しましょう。
サンゴ用の栄養剤は人工海水には含まれないアミノ酸やビタミンB類を主体にしたもので、イソギンチャクの調子を上げるために有効です。
メンテナンス等の注意点
給餌の有無について
適度な給餌や栄養剤の添加で補ってあげましょう
クマノミと共生するイソギンチャクは体内にいる褐虫藻が光合成を行うため、エサを与えずに飼育することも可能です。
しかし、飼育水槽の環境やイソギンチャクの状態によってはその限りではありません。
何故なら水槽内は自然の海と違って必要とする栄養素が不足がちになるのと、褐虫藻が減少した状態で入荷するイソギンチャクが多いためです。
クマノミと一緒に飼育する場合には、冷凍コペポーダやホワイトシュリンプなどを少量でいいのでイソギンチャクにも吹きかけてあげましょう。
サーキュレーターとストレーナーの吸い込み防止
サンゴイソギンチャクの仲間とセンジュイソギンチャクはアクティブなイソギンチャクで、快適な場所を探して常に動き回る性質を持っています。
そのためにオーバーフローやフィルターのストレーナー、サーキュレーターなどに吸い込まれる事故が多発します。
水の吸い込み口になるところにイソギンチャクが近付けないようにしましょう。
吸い込み防止対策例
クマノミ以外との混泳
クマノミ以外の海水魚や生体と混泳する際の注意点としては、イソギンチャクやサンゴを食べるポリプ食の生体は一緒に入れないようにしましょう。イソギンチャクが食べられてしまうことがあります。
イソギンチャクとの混泳に注意が必要な海水魚
ポリプ食性を持つチョウチョウウオやソウシハギの仲間は同じ水槽に入れてはいけません。
イソギンチャクが食べられてしまいます。
ナンヨウハギやヤッコの仲間も個体によってイソギンチャクやソフトコーラルを齧るものがいます。
サンゴの味を知ってしまった個体は、お腹がすくとサンゴやイソギンチャクをついばんで食べてしまうので注意深く観察をしましょう。
大きなイソギンチャク相手でも触手をついばんで食べてしまうので
混泳は避けましょう
イソギンチャクとの混泳に注意が必要なエビ
カーリー駆除に使われるエビたちもイソギンチャクを齧ることがあるため、同じ水槽に入れてはいけません。
大きく育ったキャメルシュリンプも肉食性が強く、イソギンチャクを齧る可能性があるため同じ水槽に入れないほうがいいでしょう。
混泳におけるハタゴイソギンチャクの注意点
ハタゴイソギンチャクは強力な刺胞毒をもっているため、クマノミ以外の海水魚を入れるのはおすすめしません。
どれほど強力かというと、ハタゴイソギンチャクの直径より大きな魚が捕まってしまうほどです。
直径15cmほどのハタゴイソギンチャクがいる水槽に体長20cmのハコフグを放したら捕まってしまい、すぐに引き離したものの刺胞毒でハコフグが死んでしまったという話もあります。
小型の魚ではハタゴイソギンチャクに捕まったら無事では済みません。
広い水槽であれば不幸な事故が起こる確率は下がりますが、それでも魚が捕食されてしまう可能性が0になるわけではありません。
なるべくクマノミ以外の魚は泳がせないほうが安全です。
イソギンチャクと共生するエビ
ハタゴイソギンチャクのような刺胞毒の強いイソギンチャクとの混泳には共生エビがおすすめです。
イソギンチャクの上でユラユラ揺れる独特の動きは小さいながらなんとも優雅な印象があります。
ガラス細工のような体もキレイで、ついつい混泳させたくなってしまいます。
しかし、体の大きなクマノミや他の海水魚との混泳は避けましょう。
イソギンチャクから離れたタイミングで食べられてしまうことがあります。
この仲間をじっくり飼いこみたい場合は、クマノミは入れずにイソギンチャクと共生エビのみで飼育することをおすすめします。
共生イソギンチャク用語集
褐虫藻・・・一部のイソギンチャクと共生している植物プランクトン。渦鞭毛藻の仲間。
宿主のイソギンチャクから二酸化炭素をもらい、光合成で得た糖類や栄養をイソギンチャクに渡している。
イソギンチャクが吐く褐色の物体・・・輸送されたり環境変化を感じたイソギンチャクが吐き出す褐色のモヤモヤしたフンのようなもの。その正体は褐虫藻の塊です。
サンゴの仲間は環境ストレスを感じた際に、褐虫藻が生産する酸素(に混じっている活性酸素)から身を守るため過剰な褐虫藻を排出する行動を取ります。
刺胞毒・・・クラゲやサンゴ、イソギンチャクを含む刺胞動物が持つ細胞組織。
銛を差し込んだ袋のような形状をしており、物理的刺激や化学的刺激で銛が発射され刺さった対象に毒を流し込む仕組みになっている。
発射の詳細なメカニズムについてはまだ完全に解明されていないとのこと。
分裂・・・一部のイソギンチャクが行う無性生殖。クローン増殖。
一見すると足盤が大きく破れたような兆候を見せるので、物理的なケガをしたようにも見える。
ややこしい。
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